カーテンで仕切られた病室の中で映画を見ていた。
確か『スウィート17モンスター』という映画だった。
会ったことのない内科の先生が来て、検査結果の話をしていた。
たぶん100回以上は同じ話をしたことがあるのだろう。
慣れた感じで、病気についての説明をさらさらとある程度した後、
「急に来て、こんな話してごめんね。ショックだよね、大丈夫?」
と言われ、
「あ、はい。」と答えた。
大丈夫なわけがないが、淡々と他人事のように話す医者の前では泣きたくなかった。
「それじゃあ、これからよろしくね。」と去っていった。
私はまた映画の続きを見たのだが、どういう映画だったか思い出せない。
「1型糖尿病」という病気だった。
1型糖尿病は一生治らない病気だということ。
これからずっと自分で1日4回以上インスリン注射をしないと命を繋げないということ。
血管がボロボロになるので合併症で目が見えなくなったり、足が壊死したり、心筋梗塞や脳梗塞になりやすいこと。
言われた言葉が頭の中でぎゅうぎゅうになって爆発しそうだった。
お腹には4ヶ月の赤ちゃんがいる。
私はこの子を無事に産んで、成長を見守ることができるのだろうか。
今まで風邪すら引いたこともないのに、まさか自分が糖尿病になるとは想像もしなかった。
まだ若いし、痩せてるし、ご飯だってほとんど自炊で健康に気を配り、毎週ファーマーズマーケットに行っては野菜を買って、足りない栄養素はサプリメントだって飲んでいたのに。
意味が分からなかった。
1型糖尿病とは自分の免疫がどういうわけか自分の膵臓を破壊してインスリンが出なくなる免疫異常の病気らしい。
私の免疫どうした。
遺伝でもなければ生活習慣病でもない。
誰にでもなる可能性があって、10万人に1〜2人の確率で運悪くなる。
そんな確率なら宝くじに当たりたかったな。
沖縄だと人口でいえば10人くらいしかいないじゃん。
内容の入ってこない映画を再生しながら1人で泣いた。
6人部屋の同じ病室にあと1人入院患者がいたので、気付かれないよう声を殺して泣いた。
不安に押し潰されそうで怖くて孤独で、私の人生終わったと思った。
一日に7回血糖値測定+αで看護師さんが回ってくるので、1人で悲しみに浸る時間すら与えてくれない。
こんな日くらい誰もいないところで声を上げて思う存分泣きたかった。
何かしらでこの悲しみを消費したかった。
夜中もインスリンによる低血糖で大量に汗をかいて起きた。
心臓がバクバクして苦しくなり、ナースコールをすると看護師さんがブドウ糖を飲ませてくれて落ち着いた。
翌朝目を覚ますと病室の天井。
やっぱりこれは現実なんだ。
悪い夢じゃなかったんだ。
診断名がついた日。
大丈夫なわけないじゃない。